過去の記憶活用ラボ

過去の「いつものこと」の記憶をたどり、今の自分に必要な穏やかさや強さを再発見する方法

Tags: 過去の記憶, 自己肯定感, 習慣, 強み発見, 自己理解, 日々の暮らし

日々の暮らしの中で、過去の記憶に触れる瞬間は少なくないかもしれません。それは、ふと蘇る懐かしい景色であったり、心に残る出来事であったり、あるいは昔使っていた物の手触りであったりします。多くの記憶は、遠い過去の出来事として心の中にしまわれ、時には心地よい気休めのように感じられることもあるでしょう。

しかし、過去の記憶は単なる振り返りだけでなく、現在の自分を支え、未来への一歩を後押しする力となり得ます。特に、特別な成功体験や感動的な出来事だけでなく、日々繰り返されてきた「いつものこと」の中にこそ、今の自分に必要なヒントが隠されていることがあります。

なぜ「いつものこと」の記憶が大切なのか

私たちは、自分にとって当たり前のこと、無意識に行っていることの中に、自身の個性や強さ、大切にしている価値観を埋もれさせてしまいがちです。特別な出来事は印象に残りやすく、そこから学びを得やすい一方、日常の小さな習慣や、特に意識せずに行っていた「いつものこと」は、あまり顧みられることがありません。

しかし、こうした「いつものこと」は、当時の環境や状況の中で、あなたが自然と身につけた知恵や工夫、あるいは大切にしていた穏やかな時間そのものを映し出しています。これらは、現在のあなたが直面している課題に対する解決策の糸口となったり、忘れていた自分自身の強みや、心の穏やかさを保つためのヒントを与えてくれる可能性があるのです。

心理学的な観点からも、無意識の行動や習慣は、その人の深い部分にある欲求や価値観に基づいていると考えられます。過去の「いつものこと」を意図的に振り返ることは、自己理解を深め、現在の自分をより肯定的に捉え直すきっかけとなるのです。

「いつものこと」の記憶をたどる実践ワーク

ここでは、過去の「いつものこと」の記憶をたどり、そこから現在の自分に役立つヒントを見つけ出すための簡単なワークをご紹介します。静かで落ち着ける場所で、ペンと紙、またはデジタルツールをご用意ください。

  1. 「いつものこと」を書き出す まず、これまでの人生をいくつかの期間に区切り(例えば、学生時代、独身時代、子育て中など)、それぞれの時期であなたが「いつものこと」として行っていた習慣や行動を思いつくままに書き出してみましょう。

    • 朝起きて最初にしたこと
    • 通勤・通学の道のりや過ごし方
    • 休憩時間や隙間時間の過ごし方
    • 家事のやり方や、工夫していたこと
    • 買い物でのこだわりやルーティン
    • 休日の過ごし方で決まっていたこと
    • 友人や家族との関わり方で自然とやっていたこと
    • 何か問題が起きた時に無意識にとっていた行動
    • 自分を落ち着かせるためにしていたこと 具体的な行動だけでなく、「いつも考えていたこと」「いつも感じていたこと」なども含まれて良いでしょう。量は問いません。気軽に、些細なことでも書き出してみましょう。
  2. それぞれの「いつものこと」を深掘りする 書き出した「いつものこと」の中から、特に印象に残ったものや、不思議に感じたものをいくつか選んでみましょう。そして、それぞれの「いつものこと」について、以下の点を掘り下げて考えてみます。

    • なぜ、それを「いつものこと」として行っていたのでしょうか?(例: 効率が良いと感じていた、落ち着くから、誰かのためになったから)
    • それを行っている時、あなたはどんな気持ちでしたか?(例: 満たされていた、集中できた、安心した、楽しかった)
    • そこには、どんな小さな工夫やこだわりがありましたか?
    • それをやめた、あるいは続けられなくなったきっかけは何でしたか?
  3. そこから見えてくる「自分らしさ」や「ヒント」を言語化する 深掘りした内容を眺めながら、そこから見えてくるあなたの「自分らしさ」「強み」「大切にしていた価値観」「自然な知恵」「穏やかさの源」などを言葉にしてみましょう。

    • 計画的に物事を進めるのが得意だったのかもしれない。
    • 一人で静かに過ごす時間が、自分を満たすために必要だったのかもしれない。
    • 人に喜んでもらうことに喜びを感じていたのかもしれない。
    • 限られた時間の中で最大限の成果を出す工夫を自然としていたのかもしれない。
    • 困難な状況でも、自分なりの方法で乗り越える力を持っていたのかもしれない。 これらの気づきは、あなたがこれまでの人生で培ってきた、かけがえのないリソースです。

見つけたヒントを現在に活かす

ワークを通じて再発見した「自分らしさ」や「ヒント」は、現在のあなたの人生に様々な形で活かすことができます。

例えば、「朝の身支度前に必ず数分間、窓の外を眺めていた」という「いつものこと」を思い出したとします。そこから、「短い時間でも静かに自分と向き合うことが、一日の穏やかさを保つために大切だった」という気づきを得たとします。もし現在、忙しさに追われ心の余裕がないと感じているのであれば、この過去の習慣を意識的に取り戻すことで、穏やかな時間を取り戻すきっかけになるかもしれません。

また、「家事を効率よくこなすために、自分なりに手順を工夫していた」という記憶から、「物事を順序立てて考え、効率化を図るのが得意だ」という強みに気づいたとします。これは、新しいことを始める際の計画立案や、現在の仕事・活動における課題解決に応用できる力です。

架空の事例:Aさんの場合

主婦業やパートを長年続けてきたAさんは、漠然とした不安を感じていました。「自分にはこれといった特技もないし、特別な経験もしていない」と感じていたのです。

そこで、このワークを試してみました。学生時代の「いつものこと」として、「授業のノートを色分けして分かりやすくまとめるのが好きだった」ことを思い出しました。単なるノート作りですが、深掘りすると「複雑な情報を整理し、人に伝えるために工夫するのが楽しかった」「限られたスペースで最大限の情報を見やすく配置することにこだわっていた」という気づきがありました。

Aさんは、これが自分の「情報を整理する力」や「相手に伝わるように工夫する力」であることに気づき、驚きました。これまで当たり前すぎて全く意識していなかった力です。

この気づきを得てから、Aさんは地域のボランティアグループで広報担当の募集を見つけました。「もしかしたら、私のこの力が活かせるかもしれない」と思い、恐る恐る応募してみたところ、見事に採用されました。グループの活動内容を分かりやすくまとめた広報誌やSNSでの発信は好評を得て、Aさんは自身の能力が人の役に立つ喜びを感じるようになりました。過去の「いつものこと」の中に隠されていた力が、新しい一歩を踏み出す勇気と、日々の生きがいを与えてくれたのです。

まとめ

人生の道のりには、特別な出来事だけでなく、日々繰り返される「いつものこと」が数えきれないほど詰まっています。それらは、あなた自身が築き上げてきた知恵や工夫、そして何よりもあなたらしさの証です。

過去の「いつものこと」の記憶を丁寧にたどることで、当たり前の中に埋もれていたあなたの強みや、心の平穏を保つヒントを再発見することができます。それは、現在の自分を肯定し、自信を取り戻し、未来への穏やかな一歩を踏み出すための、温かい光となるでしょう。ぜひ、あなたの「いつものこと」に耳を澄ませてみてください。